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即興小説「地球最後の電子音楽」上





新しい自殺の方法を考える。


そのスイッチを押すと、自分以外の全ての人間が命を失う。


そこには人類の置き土産、世界には、人間の手を離れた自然とインフラが遺されていた。


自動操縦で回り続けるものだけが文明を継続する。


それ以外のものは、それぞれの方法で停まる。


資源を発掘する気力など今更ない。


だから動く乗り物と自分の足だけで好きなように世界を巡る。


動物園では檻の中動物たちが死んでいる。


野生化した猫たちは、もう僕に近づいてこない。


コンビニやスーパーに忍び込んでは食べれるものを食べ


命をしのぐ。


その3年後には未知との遭遇


電気の身体を持つ新しい人類と出会う


すべての気持ちを読み取ってくれるから楽だった。


出会った瞬間奴隷にしてくれた。


完全なる恐怖と完全なる虚無。


それが一番人間には効くということを完全に理解していたから、もう考えなくていいんだと思うと楽だった。


そんな夢を見て目覚めた朝、


もう涙も枯れていた。


朝だと思ったら既に夕方だし、


何かを食べようと思っても食べたいものも何か思いつかない。


寝落ちの枕元に置いておいた漫画を開いてみる。


昨日読んだところにもう一度感動する。


もう一回漫画を閉じてもう一回同じ漫画を開く。


やっぱりもう一度そこに感動する。


そうかだから何も食べたくないんだ。


もう一回漫画を開く。


新しい自殺の方法を考えた少年が、自分以外の人類全てが命を失う、そういうスイッチを押した後の世界の美しさと、その後の人類の醜さにもだえ苦しむ漫画の第14話を開く。


その世界の中で少年は、自分以外の人類を1枚の透明な手鏡のような幽霊に圧縮して手元で何もかもを好きに眺めることができた。


それさえ見ていれば適当に楽しかったし適当にあったかい場所で寝ていられたから、第4話目からはずっとコンビニのシーン。


手鏡の中に暮らす、一人の少女に恋をして、その子の記憶を眺めることに一年半使って、その子の嫌なところが見えたので別の少女に恋を移行させ、嫌なところが見えたのでまたやめる。


同じ街で20のコンビニを転々としながらそれを行い、57人の少女への勝手な片思いに疲れると、だんだんと体も重くなってきたので、逆に今のこの重たい体だったら数億光年先の銀河系への旅にも耐えうるであろうから、そうだ自分で瞬殺しておいてなんだけど地球人を探しに行こう、この星を抜け出して、どこかに生息しているかもしれない地球外生命体地球人を探しに行こう、地球人を全て消ししておいてなんだけれども、ちょっとだけ申し訳ないけれども自分が寂しくて死んじゃうよりはマシだから地球人を探しに行く以外にやりたいこともないから地球人を探しに行こう。


そう決意した少年は、たった14年という短い期間で東京にある残されたインフラを活用し、不老不死の肉体と、数億年の宇宙旅行に耐えうるシャトルを製造、動植物と新しく生まれた電気の体の人類を残し地球から旅立っていった。


そう、電気の肉体を持つ新しい人類とは、あの日ひと目会っただけ。


あれ?


あの日っていつだっけ?


僕らはどこで出会ったんだっけ?













即興小説「地球最後の電子音楽」











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