詩「言葉で傷を縫うなら蝶の翅を」
- AI UEOKA
- 1月16日
- 読了時間: 2分

言葉を紡ぎ、傷を縫う。
そのかさぶたが渇いて立ち上がると、まるでコンクリートに脚をつけ翅を広げ何かを待つ蝶のような縫い目を見せた。
その蝶はきっと、蛹であった頃を懐かしんでいる。
まだ幼さに浸っていたい。
だから 幼虫の頃のように、 蛹を割いた瞬間の、渇いた殻を脱ぐときの羽ばたきのように、地面の上で翅をばたつかせた。
私はそれを 『胡蝶の舟』 と呼んでいた。
蛹の殻が船体。
その上に、
とまったままの、
大きな蝶が一匹。
翅は、帆の役目をしている。
風に弱くてすぐに破ける。
蛹の頃は透明だった。
今も変わらずグラグラ揺れる。
液体のままで脱皮したから透明なままで、 風に吹かれてすぐに飛び散る、波飛沫のよう。
心はすぐに蒸発した。
焼き尽くされたり
凍りついたり。
その一連のモーションを
私の言葉が描いてきた。
私が私のために描く言葉ではなく、
それは私が私の傷口のために描く言葉でしかなかった。
人は、傷口がふさがったからといって幸せになるわけではないことを、まざまざと日々思い知らされた。
傷口と幸せは、
全く別のものだった。
塞がったところでそのあとを眺めれば、その痛みは常に今この瞬間ここに立ち上がってきた。
暗黒の蝶の、
羽ばたきのように。
私は学ばなければならなかった。
翅に模様があるとするのならば、
それは私の傷口でいい。
私の才能が、
蛹の中の透明でいられることであるのなら
世界地図に自由に街を配置するように
夜空に好きなように
星座を描く自由を得たように
風のように自由に傷口を配置してみせる。
それが私の幸せだった。
私はその翅の模様で、地図を描いた。
空から降る雨が、
大地に鍵をさすように
私の翅という水面は、
着地した雨のような傷口を愛した。
その波紋の交響曲が、
私の時を、
描いているなら、
私は雨で鍵をさす鍵っ子
塞がった傷口を扉にして
その扉を癒すように
その鍵を挿す。
それが私の生きることであり
それが私の毎日だった。
その傷口の波紋の翅の地図
私の幼い水たまりは
天国の壁に描かれた裏側の壁画のように
私にしか見ることができなかったけれど
その色彩から沸き立つ音色は
いつのまにか空に浮かぶ雲のように形をなし
私の前に、
あなたを
表す。